Episode8:裏社会と行政の見えない接点──店を支える“影の存在”の正体に近づく
裏社会シリーズ
裏社会と行政の見えない接点──店を支える“影の存在”の正体に近づく。
夜の街を支える仕組みの中には、行政の目と裏社会の距離感が入り混じる“接点”がある。
実際に現場で見た届出制度、雑居ビル文化、ママさん会、税務署の恐怖を描く。
👁️🗨️ 1. 街に漂う“見えない目”
「また捕まったらしいよ、あそこの嬢。」
携帯電話で話す同業ドライバーの声が耳に届く。
「今度は入管に連れていかれたって話だ。」
そんな噂はこの業界では日常の一部。
オーバーステイや摘発の情報は、嬢との雑談よりも、
ドライバー同士の電話で交わされる会話から広がっていった。
助手席は“恋人演出”のために嬢の指定席。
後部座席には、同じエリアに送る嬢を相乗りさせることもある。
夜の街を走る車内には、嬢の香水の匂いと静かな緊張感、
そして鳴り止まない携帯電話の着信音が混ざり合う。
パトカーのライトが窓に反射すると、車内の空気が一瞬凍りついたように静まる。
「見られてる」──そんな意識が、この街の夜を包んでいた。
📝 2. 営業開始届出書のリアル
この業界で営業を始めるには、いわゆる「許可証」を取るのではない。
店舗の管轄警察署・生活安全課に営業開始届出書を提出し、公安委員会を通して手続きが進む。
1〜2週間ほど経つと、公安委員会の印が押された届出確認書が返ってきて、それをもって正式に営業開始となる。
この書類の存在は、世間が抱く“裏社会=無許可営業”というイメージを少し覆すかもしれない。
もちろん、韓デリにはこの届出書の周辺でしか語れない独特の事情がある。
事務所や待機場所の確保の方法、名義貸しの実態、複雑なネットワーク──
その話は長くなるので、次回か有料記事でじっくり触れることにしよう。
🏢 3. 雑居ビル文化の裏側
この業界の多くの店舗は、表向きの営業拠点として雑居ビルの一室を借りていた。
しかし実際には、そこは名義だけの拠点であり、関係者以外は基本的に入室できない。
届出に記載された電話番号もすべて転送システムを利用しており、受付業務は別の場所で行われるのが常だった。
昼間は静かな古い建物だが、夜になると複数の店の電話が同時に鳴り出す。
そうした雑居ビルには独特のネットワークと暗黙のルールが存在していた。
その詳細は業界を知る者しか語れない世界だ。
──詳しい仕組みや当時の相場は、また別の機会に触れることにしよう。
🤝 4. ママさん会と情報網
ママさん会の送迎はよく担当していた。
会の後にはご馳走してもらうことも多く、気に入られていたのか、
やがて電話受付や内勤業務も任されるようになった。
そのおかげで、ママさん会の裏側もある程度わかるようになった。
ママさん会は一見華やかに見えるが、実態は上辺だけの付き合いが多い。
「さっきのママはあまり信用できない」
会が終わった後には、そんな陰口を聞くことも珍しくなかった。
集まりの中心は、売上の相談や嬢の紹介、バンス(前借り金)の回収案。
地方の系列店や他のママさんへ嬢を移動させる話、
「若いママさんはどうだ」といった人間模様ばかりだった。
もちろん、税務署の話題も頻繁に出る。
税務調査が入ることを恐れて、店名や届出確認書の代表者を
1~2年ごとに入れ替え、税務署から目をそらす工夫をしていた。
実際、調査で突然休業になった店もあり、
営業再開時には新しい届出確認書を用意し、
店名を変えて“新規オープン”として再スタートすることもあった。
韓国人経営者のこのスピード感には、ある意味で感心させられた。
表向きは世間話の場でも、裏側では業界全体の情報網が動いていた。
寮の空き状況や嬢の移動計画、バンス回収の算段──
ママさん会は、夜の街を裏で支えるための重要な“ハブ”だった。
🧾 5. 税務署の恐怖
夜の業界で一番恐れられていたのは、警察よりも税務署だった。
税務調査が入ると、立ち行かなくなる店も珍しくない。
あるママさんは、自宅マンションを届出事務所として営業していた。
ある日突然、そのマンションに税務署の職員が直接訪ねてきたそうだ。
なんと4年間、一度も税申告をしていなかったという。
届出事務所が雑居ビルの場合は、普段は人がいないため、
調査が入ると届出確認書に記載された代表者の住所に税務署が向かう。
この時も、最終的には名義貸しが発覚し、
名義人が30万円以下の罰金を支払うことで決着した。
しかし実質的な経営はママさん本人であり、
彼女は摘発前に帰国し、そのまま雲隠れしたという。
当時はなぜそれで帰国できたのか、今でも謎が残る。
このエピソードは、夜の業界と表の世界との奇妙な距離感を象徴している。
届出確認書や名義上の代表者制度は、業界を“半分表”に見せてくれるが、
一度税務署の目に止まれば、その制度も紙切れ同然になる。
表と裏の境界線は、常に紙一重だった。
🧭 6. 結び:表も裏も同じ地図の上
夜の街を走ると、表の世界と裏の世界が混ざり合って見える。
届出確認書の存在が、この業界を“半分表”にしてくれる一方で、
その裏では雑居ビルの電話回線や名義貸し、そしてママさんたちの情報網が、
静かに街を支えている。
警察や税務署といった行政の目は、常にこの街のどこかにある。
それでも街は眠らず、同じ地図の上で、表と裏が共存し続けていた。
この不思議な均衡が、あの頃の夜を支える“見えないルール”だった。
次回予告:
Episode9では、「一夜の中に潜む緊張感──送迎ドライバーが見た、街の裏ルートと危険信号。」をお届けします。
※本記事には暴力・違法行為に関する描写が含まれます。体験記録であり、違法行為を助長する意図はありません。登場人物・団体は特定できないよう配慮しています。

