Episode6:交差点で待つ影──逃げ場のない職質

🚨 冒頭:突きつけられる現実
ホテルの自動ドアを開けた瞬間、心臓が一気に跳ねた。交差点の角に建つホテル。1階の駐車場の横から外へ出た視界の先には、予想以上の数の警察官が包囲網のように立っていた。
- 私服警官(男)4人
- 制服警官6人+婦人警官1人
- 警察用自転車2台、白黒パトカー2台、覆面パトカー2台(助手席側の屋根に小型赤色灯)
覆面はホテル前の交差点と斜め向かいのコインパーキング前に停車。冷えた夜気に無線の断片だけがザラついて聞こえ、赤色灯の光が路面ににじむ。正直、このまま署に連れて行かれるのかと諦めかけた。
「こんばんは、○○警察署の○○です。今日は何をしにここへ? 彼女とはどんな関係?」
落ち着いた声色に、こちらも余計におどおどせずに答えられた。「付き合っている」と咄嗟に言った気がするが、細かいやり取りは緊張でほとんど覚えていない。強く残っているのは、彼女と距離を置かれて別々に職質を受けたことだ。遠くに立つ彼女を横目に、「何を話している?」「自分の言葉と矛盾していないか?」――背中を汗が伝う。
🚗 嬢を車に避難/通訳に入る
ふと頭をよぎったのはママさんの指示――「湯船にお湯を張っておきなさい」。湯上がりの彼女は髪先が少し濡れて、外気の冷たさに小刻みに震えていた。その様子を見て、何度も警官に頼み込む。
「彼女を車に乗せてもいいですか?」
やがて許可が出て、彼女は暖房の効いた車内へ。彼女の日本語はほとんど通じず、質問は続く。
「彼女はどこの出身?」「どこの日本語学校に通っている?」「あなたとどういう関係?」
自分が間に入り、片言の韓国語と日本語で通訳。朝によく日本語学校まで送っていたので、学校名や場所をスムーズに説明できた。少しずつ空気が和らいでいく。彼女への職質はおよそ15分で車待機に。自分への職質はそこからさらに20分ほど続いた。
📦 持ち物検査
職質はさらに厳しくなり、お互いの持ち物検査が始まった。彼女のバッグには、仕事用のコンドームやローションボトル、店の割引券、源氏名の名刺などが元々たくさん入っていたが、ホテルの部屋に戻ったときに証拠になりそうな物はゴミ箱に捨ててきた。代わりにバッグには日本語学校の宿題が入っており、それが救いになった気がする。
自分のほうは、トランク、グローブボックス、ダッシュボードまで細かく確認された。幸い、ホテルに向かう前に送迎仲間へスペアの仕事道具を預けていたため、怪しい荷物は何も出てこなかった。
👤 解放――そして余韻
職質の最中、何組ものカップルや同業の送迎車が目の前を通り過ぎ、こちらをジロジロ見る。その視線が刺さるたびに、恥ずかしさと「このまま署行きか」という不安が膨らんだ。
「もう帰っていいですよ」
そう告げられた瞬間、安堵よりも「こんなにあっさり解放されるのか」という拍子抜けの感情が先に立った。帰ろうとしたとき、私服警官が一言。
「この辺りは違法滞在の外国人労働者が多いからね。遊ぶなら、別の町で遊んだほうがいい」
夜風がまた冷たく感じた。すでに暖房の効いた車内に戻ると、張り詰めていた何かがゆっくり解けていく――それでも胸の奥には、ざらついた感覚が残ったままだった。
次回予告:
Episode7では、警察の目をかいくぐりながら働く現場の裏ルール、そして“グレーゾーン”の街で過ごすドライバーたちの日常をお届けします。
※本記事には暴力・違法行為に関する描写が含まれます。体験記録であり、違法行為を助長する意図はありません。登場人物・団体は特定できないよう配慮しています。

