裏社会シリーズ

シリーズを読むならここから!体験者だからこそ書けるリアルな物語です。

第1章 Episode1

第1章 Episode19

裏社会シリーズ

🏚️ 寮という生命維持装置──行方不明と代替手配

目次(見出し)

  1. 📋 “点呼なし”の現実
  2. 👀 既読確認と無言連絡
  3. 🚨 失踪対応のリアル
  4. ⚙️ 現場指示の混乱
  5. 🚗 ドライバーの心理描写
  6. 🔚 結び

📋 “点呼なし”の現実

夜の寮には、誰かが一人抜けていても、すぐにはわからない。
点呼などの形式は最初から存在しない。
この世界では、各自がカカオトークで短いスタンプを送るだけで「生存報告」とされる。
誰もその仕組みに疑問を抱かない。
むしろ、それで十分に業務は回っていく。
見えない信頼と諦めが折り重なり、日常は静かに流れていた。

👀 既読確認と無言連絡

毎朝の連絡は、ほとんど無言のやり取りだ。
「おはよう」も「よろしく」もない。
並ぶのは無機質なアイコンと短いスタンプの列だけ。
けれどその中に、ひとつだけ既読がつかないものがあると、空気が変わる。
誰かが何かを言うわけでもない。
ただ“既読がつかない”という小さな違和感が、全員の胸にじわじわと広がる。
無言の沈黙ほど、怖いものはない。

🚨 失踪対応のリアル

同室の嬢から「○○ちゃん、荷物も何もないよ」と連絡が入ると、
電話番はママさんに報告し、そこから“対応”が始まる。
バンス(前借り)のない嬢なら、そのまま放置されることが多い。
この世界での「自己責任」は、そういう意味だ。

だが、バンスが残っている嬢となれば話は別だ。
ママさん会のネットワークや、送迎グループの代表に声をかけ、
「最後に○○ちゃんを乗せた人はいないか?」と情報を洗う。
さらに鶯谷エリアの広告サイトを片っ端からチェックし、
他の店の“新人枠”に写真が出ていないか探す。
見つければ客のふりをして呼び出し、その場で店のママさんも呼んで、
バンスの話し合いが始まる。

地方に逃げられた嬢は、もう探さないことが多い。
帰国してしまえば泣き寝入りも珍しくない。
だからこそ、バンスを受ける嬢はパスポートを担保に入れる。
逃げられないように――。
街のルールは、誰にも告げられることなく、
でも確実にすべての人間を縛っていた。

⚙️ 現場指示の混乱

そんな中でも「客を止めない」という鉄則だけは絶対だった。
誰かがいなくなっても、業務は止まらない。

嬢が前の客で怪我をすれば、別の嬢を急いで送り出す。
店のキャストが足りなければ、他店舗から嬢を借りる。
通常取り分は四割だが、借りた嬢なら二割を相手店に払うルールだ。
受付が時間を間違えれば、割引やホテル代負担で怒りをなだめる。
指名嬢が別の仕事中でも予約は受ける。
別の嬢を派遣して“穴”を埋める――。
そうやって常に現場は走り続け、客は何も知らずに楽しんで帰る。
その裏で、スタッフは黙々と問題を調整し続ける。

🚗 ドライバーの心理描写

そんな日常の中で、ドライバーとしての自分も徐々に麻痺していった。
嬢が“飛ぶ”ことは珍しくなく、最初の衝撃や恐怖も、
やがて日常のひとつになっていった。

だが、バンスが残っている嬢を探し出すときは、
どうしても気持ちが沈む。
客のふりをして部屋に呼び出し、
顔を知られていないスタッフを先に部屋に入れて逃げ道を塞ぎ、
後から自分が部屋に入る――。

部屋の中でぶつかるのは、絶望を宿した嬢の目。
捕まった嬢に唾を吐きかけられ、物を投げられ、
叫び声が響いたこともあった。
その場の空気は張り詰め、心臓が痛いほど高鳴る。
「仕事だから」と割り切っても、その光景は頭から離れない。

慣れたと思い込んでいた自分が、
何ひとつ慣れてなんかいなかったことを、
その瞬間、痛いほど思い知らされる。

🔚 結び

朝方になって、どうにか状況が落ち着く。
けれど「誰かがいなくなること」が日常に溶け込んでしまっている現実は、
心の奥でずっと冷たく鳴り続けている。
その音は、車のエンジンを止めても消えることはなかった。





※本記事には失踪や金銭トラブルに関する描写が含まれます。体験記録であり、違法行為を助長する意図はありません。登場人物・団体は特定できないよう配慮しています。

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