Episode16:裏切りが招いた改革――電話番とシステムの進化
目次(見出し)
📱 事件発覚
ママさんと電話番の信頼関係は、この業界での命綱のようなものだった。
しかし、その信頼が裏切られた時の衝撃は計り知れない。
🕵️ 巧妙な手口
当時、受付業務はすべて携帯電話で行われていた。電話帳には客の名前とコース、利用日を細かく登録し、さらに受付台帳にも「○○ちゃん90/9.15」のように記録を残す。
嬢が客先に到着すると、その時間を賃金台帳に記入し、終了10分前には2コールの合図を送り、帰り支度を促す――これが店の標準的な流れだった。
だが、この仕組みを逆手に取り、電話番と嬢が結託して裏切りを働く事件が起きた。
電話番は客からの予約を受け付け、嬢を送り出すが、この時だけは店の送迎車を使わず、別の送迎グループを手配。
そして仕事が終われば売上を帳簿に記載せず、電話の着信履歴を削除。
裏で取り分は嬢が8割、電話番が2割――こうして毎日のように何件かの売上が闇に消えていった。
🔍 露見と裏取り
電話番が自宅で業務をすることが多く、ママさんと顔を合わせる時間はほとんどなかったため、この手口はしばらくバレなかった。
電話番は「長年やっているベテランスタッフ」という安心感を利用し、巧妙に痕跡を消していた。
しかし、彼らのミスは些細な会話から露見する。
電話番の休日、代わりに受付を担当したママさんが、常連客から「前回の○○ちゃんがよかった」と言われたにも関わらず、記録が残っていなかった。
さらに、別の送迎グループのドライバーから「最近よく利用してくれてありがとう」と声を掛けられたことで、疑念は確信へと変わった。
ママさんはすぐに裏取りを開始。携帯会社からの明細を遡り、着信履歴の異常や空白時間を洗い出す。
帳簿の隙間や送迎車の走行記録、そして客からの何気ない一言――その全てがパズルのピースのように繋がり、真相が明らかになるまでに時間はかからなかった。
⚙️ 改革とシステム導入
電話番と嬢は即日呼び出され、その日のうちに解雇。
店には重苦しい空気が流れ、常連客にも裏の事情が噂として広まった。
この事件をきっかけに、ママさんは「信頼」に基づく現場の脆さを痛感し、管理方法を徹底的に見直した。
受付の権限を複数人に分散し、出勤嬢や送迎ルートの情報は共有化。携帯の利用も個人持ちから店専用の端末へ切り替え。
さらに1年後にはCTIシステムを導入し、着信履歴を携帯とパソコンに自動保存。裏で売上を抜かれるリスクは格段に減った。
のちに私が内勤に入ってからは、電話番を日本人アルバイトに切り替え、韓国語が必要な時は翻訳機を利用。
翻訳機でも対応できないケースは直接ママさんに連絡するシステムへと変えた。
こうした改善の積み重ねは、防犯対策だけでなく業界全体の信頼構築にも繋がった。
💸 業界に広がる緊張感
裏社会の金の流れは、表の世界以上にシビアだ。
一件あたり数万円単位の売上が一夜にして消える。
送迎ドライバーやブローカー、広告代理店まで絡む複雑なネットワークの中で、ひとつの穴が大きな損失を生む。
そして、その損失は人間関係や信用にまで波及していく。
今回の裏切り劇は、ただの「窃盗事件」ではなく、店全体の仕組みを揺るがす警鐘だった。
情報とお金を握る電話番のポジションは経営の中枢。
一度崩れた信頼は元には戻らない――この事件は、ママさんが後に「店の歴史を変えた日」と語るほどの出来事となった。
※本記事は過去の体験を基にした記録であり、違法行為を助長する意図はありません。登場人物・団体は特定できないよう配慮しています。

