Episode14:仲間内のサムギョプサル会と誕生日会の夜
夜の街で働く人間たちにとって、職場以外の交流の場は数少ない。
そんな中で行われる「サムギョプサル会」や誕生日会は、単なる飲み会以上の意味を持っていた。
🛟 韓国人経営者の店で開かれる“安全地帯”
その夜の舞台は、仲の良い韓国人経営者が営む韓国料理店。
韓国人コミュニティの中でも信頼されている人物で、この店は裏社会でも「安全地帯」として知られていた。
警察沙汰やトラブルに巻き込まれる心配がない、数少ない憩いの場。
19時頃から始まった会には、ママさん、嬢たち8人、そして私を含めたスタッフが集まった。
テーブルの中央には鉄板が置かれ、ジュージューと音を立てるサムギョプサルの香ばしい匂いが店内に広がる。
嬢たちは日頃の疲れを忘れたように笑顔を見せ、仕事場では見られない素顔をのぞかせていた。
⏳ 仕事は優先、会の途中でも現場へ
この集まりは、あくまで“仕事の合間のひととき”という暗黙のルールがあった。
客から指名が入れば、嬢はその場でメイクを整え、笑顔を作り直してすぐに出発する。
サムギョプサルの鉄板を囲んでいたはずの席が、突然ポッカリと空く。
食事を楽しむ時間でありながら、緊張感は常に漂っていた。
ある嬢は「せっかく食べ始めたのにまた呼ばれた~」と笑いながら席を立ち、
別の嬢は「今夜は稼ぐ日だから!」と覚悟を決めて、深夜の客先へ向かっていった。
稼ぐためにこの世界に身を置く彼女たちにとって、食事も団らんもすべては仕事優先。
そんな覚悟を肌で感じられる時間でもあった。
🎂 誕生日を祝うささやかな時間
その日は偶然、ある嬢の誕生日でもあった。
ケーキを用意したママさんが、「今日はお疲れさま!おめでとう!」と笑顔でろうそくを灯す。
嬢たちは一斉にクラッカーを鳴らし、韓国語と日本語が入り混じった「センイルチュッカハムニダ」の声が店内に響く。
普段はクールで淡々と仕事をこなす彼女も、この瞬間だけは涙を浮かべて笑っていた。
夜の世界に生きる人間たちは孤独を背負うことが多いが、こうした小さな場面で仲間意識を強めていた。
「私たちは一人じゃない」――その実感が、この仕事を続ける力になっていたのだ。
🤝 韓国コミュニティの支え
こうした食事会は、韓国人経営者や業界関係者の協力があって成り立っていた。
お互いの店を支え合い、嬢たちの安全を守るための情報共有も、この席で自然と行われる。
「最近、あの客はヤバいらしい」「このホテルは最近取り締まりが厳しい」
そんな何気ない会話が、そのまま現場で役立つ“生きた情報”となる。
情報は命を守る盾であり、裏社会を生き抜くための武器でもあった。
食卓を囲み、笑い合う中でさりげなく交わされる警戒情報――
それがこの世界の“見えない安全網”を作っていた。
🚏 終電後の深夜、再び戦場へ
23時を過ぎると、嬢たちは再び仕事モードに戻っていく。
ケーキのロウソクを消した直後にも指名の連絡が入り、誕生日の嬢は再び笑顔を作って車に乗り込んだ。
「今日はケーキ食べたし、もっと頑張らないとね!」と冗談を言いながら、
彼女は深夜の客先へ向かっていく。
宴の後の夜道には、再びネオンが光り、緊張感が漂う。
あの楽しいひとときがあったからこそ、また戦える――
嬢たちの背中を押すのは、高級シャンパンでも豪華なプレゼントでもない。
一緒に過ごした仲間との時間だった。
※本記事には暴力・違法行為に関する描写が含まれます。体験記録であり、違法行為を助長する意図はありません。登場人物・団体は特定できないよう配慮しています。

