Episode13:夜の街を動かす“見えない糸”──鶯谷の情報網
鶯谷の夜は一見静かだが、その裏では無数の情報が飛び交っている。
送迎ドライバー、ママさん、受付、客──
さまざまな人々の間で結ばれた“見えない糸”が、街全体を動かしていた。
🚕 ドライバー同士のネットワーク
ホテル街を走る送迎車は、互いに顔を覚えている。
言葉を交わさずとも、「誰がどの嬢を送迎しているか」「どの店がどのホテルを使っているか」
そうした情報は自然と共有されていく。
待機場所や車の停め方、ホテルの出入りの仕方まで、
小さな行動の積み重ねがドライバー間での評価や信頼につながった。
経験豊富なベテランは、街の空気を読むのが早い。
「このホテルはパトカーの巡回が多い」「あの客はトラブルになりやすい」
そんな情報が、声に出さずとも街の中で瞬時に共有されるのだ。
🇰🇷 韓国人コミュニティの情報力
韓デリ業界のネットワークは特に強固だった。
ママさんや受付、送迎グループの代表同士が頻繁に連絡を取り合い、
客の素性や嬢の安全、警察の動きまで瞬時に広がる。
街全体がまるでひとつの“裏社会ネットワーク”として機能していた。
この情報網は、ドライバーにとって命綱のような存在だった。
行くべきでない場所、危険な客、避けるべきルート──
これらの情報がなければ、毎晩この街を安全に走ることはできなかった。
⚠ 危険の匂いは先に届く
ある高級住宅街への派遣では、「その家の前に車を停めるな」と先輩に念を押された。
理由は、住人が毎回違う車を敏感に察知し、店に苦情を入れるからだった。
実際に現場へ行くと、周囲の視線や張り詰めた空気で、その忠告の意味を理解した。
別の夜には、以前別の店でNGを出された客の住所へ派遣されそうになった。
出発前に住所を他のドライバーに伝えると、「そこは危ない」と即警告が入り、
直前で引き返すことができた。危険な客情報は、店やドライバーの間で常に共有されていた。
さらに、ある家では客がマリファナを吸っていた。
嬢が車のドアを開けた瞬間、タバコを吸う自分でも違和感を覚えるほどの、
焦げた草やお香のような独特な匂いが車内に充満した。
「今日は帰り道で職質されるかもしれないから気をつけて」と、
他店のドライバーからの警告連絡が入り、その夜は一段と緊張感を持ってハンドルを握った。
🕸 見えない糸の中で
鶯谷の街では、表向きにはただのラブホテル街でも、
深夜になると無数の糸が交錯し、ドライバーや店、客たちの動きが複雑に絡み合う。
この街を安全に走り抜けるには、運転技術以上に、
“裏社会ならではの情報網”を読み解く力が必要だった。
こうした助け合いのネットワークは、表には絶対に出ないが、
確かにそこに存在していた。そして、それがなければ、
私たちは毎晩、この街を生き抜くことはできなかった。
※記事内の出来事や人物は過去の経験を基にした記録であり、特定の個人や団体を誹謗中傷する意図はありません。

