Episode11:深夜のトラブル現場──呼び出された送迎ドライバーの役割
深夜のホテル街は、車のエンジン音と街灯だけが静かに響く。
そんな中で携帯に入った着信は、いつもと違う緊張した声だった。
「トラブル。すぐ来て。」
指定されたホテルに着くと、路上には数台の送迎車が停まり、
入口付近ではキャストと客が揉めていた。
怒鳴り声が夜に響き渡り、ホテルスタッフも困惑している様子。
この街ではこうした“呼び出し”は珍しくない。
だが空気の張り詰め方で、その日の“難易度”がすぐに分かる。
🚗 現場介入の役割
ドライバーの仕事は単なる運転だけではない。
客が支払いを拒否したり、キャストが危険を感じたときには、
安全な撤退や避難先の確保まで任される。
マニュアルなど存在せず、その場の判断が全てだった。
基本の流れはシンプル。
キャストを素早く車に乗せる → 店に状況報告 → 安全ルートで撤退。
しかし実際はそう簡単ではない。
客が車の前に立ちはだかることもあれば、
ホテル前での騒動に人々の視線が集まり、
その中で目立たず車を動かすのは至難の業だった。
⚡ 忘れられない深夜の現場
ある晩、鶯谷から品川の高級マンションに泊まりで入る韓デリ嬢を送迎した。
夜21時50分頃、マンション前に彼女を降ろし、店からの「OKコール」を受けて鶯谷に戻り、普段通りの送迎を続けていた。
深夜3時過ぎ、ママさんから突然電話が入る。
「さっき送った品川のマンションに急行して。」
急いで車を走らせ、現場到着後にママさんへ到着報告をすると、そこで初めて詳細を聞かされた。
客は嬢に酒を飲ませて酔わせた挙句、「財布を盗まれた」と騒ぎ、
さらに「不法就労だろ、警察呼ばれたくなければ50万払え」と脅してきたという。
だが彼女は結婚ビザを持ち、就労制限もない。
ママさんは「盗ったなら警察を呼べばいい」と応戦していた。
私はマンションに入り、部屋のインターホンを押す。
酔った客が勢いよくドアを開け、私に文句を浴びせるが、内容は要領を得ない。
「嬢はどこですか」と尋ねると、彼女はテーブルの下で裸のまま横たわっていた。
必死に彼女を揺り起こし、服を着せて車へ連れ出そうとしたが、酔いで歩けない。
私は冷静に客と対話を続けた。財布はどこか尋ねると「鞄にある」と言うが、
鞄を確認しても見つからず、結局ベッドに隠してあった。
さらに売上金10万円も見当たらない。
私は「じゃあ警察を呼びます」と携帯を出すと、客は観念し、
食器棚から10万円を取り出し謝罪した。
客は「もう帰っていい」と言い、私は嬢を肩で支えながらエレベーターを降り、
無事にママさんの家まで送り届けた。
⚖ 静かな緊張の中で
送迎車は、時に“緊急車両”のような存在になる。
エンジンをかける手が汗ばむほどの緊張感の中、
無駄な言葉を交わさず、冷静に状況を見極める。
ドライバーは表に出ないが、裏社会では“最後の防波堤”だ。
こうした現場を何度も経験するうちに、
路地裏の安全な退避ポイントや、
警察の巡回ルート、通報されやすい場所の特徴などを、
自然と身体で覚えていった。
鶯谷の街は眠らない。だがその静寂は、
常に緊張感の上に成り立っている。
一晩で何十件もこなす送迎の中に、
こうした“突発的な瞬間”は必ず混ざっていた。
そして毎回、自分の役割の重さを痛感させられるのだった。
※本記事には暴力・違法行為に関する描写が含まれます。体験記録であり、違法行為を助長する意図はありません。登場人物・団体は特定できないよう配慮しています。

