🏠 寮での暮らしと待機の現実
待機場所はほとんどの店に専用の部屋があるわけじゃなく、基本は寮での待機だった。
寮はアパートやマンションの一室を使うのが一般的で、2DKなら6畳の部屋が2つ。
1部屋に布団を3組並べて、計6人が一緒に生活──これが日常だ。
寮費は1人あたり約6万円。
米や辛ラーメン、キムチは常備されていて食べ放題。
韓国食堂からは1日1~2回おかずが配達され、ドライバーはこの配達を担当し、
1回500~1,000円の配達料をもらえた。
キッチンには日本のテレビとDVDプレイヤーが置かれており、
アガシたちは韓国雑貨店で買った韓国ドラマ放送直後の違法DVDをよく鑑賞していた。
日本語字幕はなくても、母国語のドラマを観ている時間が唯一のリラックス時間でもあった。
アガシたちは万年床の布団の上でゴロゴロしながら過ごし、
ノートパソコンで韓国の違法動画サイトを見たり、
スマホでネットサーフィンをしたり、ただ眠ったり──。
これが、彼女たちにとって「仕事の合間の時間」だった。
✈️ 空港送迎の裏側
新しいアガシが日本に到着する日、そして3か月の滞在を終えて帰国する日──
空港への送迎もドライバーの重要な仕事だった。
送迎1回の単価は約2万円(高速代・ガソリン代込み)。
当時の高速道路の往復料金は5,000~6,000円で、
コストを考えて時間がある時は下道を使うことも多かった。
当時はまだスマホが普及していなかったため、
韓国携帯でママさんが連絡を取りながら待ち合わせ場所を指示。
初めての日本で迷子になる子も多く、合流にはいつも時間がかかった。
アガシたちはジャージ姿にサンダルでロビーでも目立つ存在だった。
🛂 イミグレーション突破のための工作
アガシたちが入国するとき、イミグレーション(入国審査)は最大の難関だった。
ブローカーからは「友達に会いに来たと言え」と細かい指示が出ており、
浅草や後楽園のビジネスホテルの予約票を持参して臨む。
もちろんこのホテル代も借金に加わる。
入国管理官から「その友達に電話を」と言われると、
日本語が堪能な在日の“アジュマ”が通訳役として対応。
それでも「出稼ぎ目的」と見なされ入国拒否になることも多く、
私は空港で5~6時間待機させられた経験が何度もあった。
📦 入国初日のスケジュール
無事に合流できたら、まず寮に荷物を置き、その後はママさんの家へ。
ここで仕事や生活のルールの説明を受け、プリペイド携帯を支給される。
一緒に食事をすることもあった。
その後は日暮里の韓国人経営の撮影スタジオへ直行し、
宣材写真6枚+1分動画を撮影。
撮影費用は約6万円で、写真はPhotoshopで修正される。
もちろんこの費用もアガシの借金だ。
撮影が終わって寮に戻れば、その日から客待ち生活が始まる。
到着したその日から業務スタート──
これが、この世界の当たり前だった。
この街で過ごした一日一日は、どの瞬間も「非日常」の連続だった。
でも、それが日常になってしまったからこそ、今思い出すと一番恐ろしいのかもしれない。
次回のEpisode4では、アガシ同士の嫉妬や派閥争い、体調不良時の病院事情、闇医者ネットワークなど、
さらにディープな裏側をお届けします。
← Episode2へ | 目次へ戻る | Episode4へ →