裏社会シリーズ

シリーズを読むならここから!体験者だからこそ書けるリアルな物語です。

第1章 Episode1

第1章 Episode12

裏社会シリーズ

Episode12:呼ばれなくなるドライバー──評価と信用の世界

夜の街の送迎ドライバーは、決して“安定した仕事”ではない。
毎晩同じ顔ぶれで走るドライバーもいれば、突然どの店からも呼ばれなくなる者もいる。
この業界は狭い。噂や評価は瞬時に広まり、一度ついたイメージは簡単には消えない。

🚗 韓デリ送迎の独特な仕組み

当時の韓デリ業界には、二つの送迎スタイルがあった。
ひとつは、タクシー会社のように代表を中心に組織化された送迎グループ
このグループには数十人のドライバーが所属し、代表が窓口となって各店舗から依頼を受ける仕組みだった。
複数の店を横断して送迎を行うため、ドライバーたちは様々な嬢やママさんの情報に詳しく、街全体の動きを把握していた。

もうひとつは、店舗直接雇用(請負)の専属ドライバー
これは日本のデリヘルと同じ形で、所属店舗の仕事だけを担当する。
ただし韓デリの場合、専属ドライバーでも別の店から緊急で呼ばれることも珍しくなく、
「誰がどの時間にどこで働いているか」という情報網が非常に濃い世界だった。

こうした送迎システムは韓国人コミュニティ独自の文化で、
柔軟でスピーディーな対応を求められる代わりに、
ドライバーの信用や評判はさらに厳しく問われる環境だった。

📊 無言の評価システム

送迎の世界には「評価シート」や「レビュー」は存在しない。
だが、遅刻や態度、運転スキルは常に見られていて、
たった一晩でドライバーの評判は街中に広がる。
道を知らない、連絡が遅い、客やキャストへの対応が雑──
こうした欠点が目立てば、数日後にはどの店からも電話が鳴らなくなる。

逆に、時間厳守・安全運転・丁寧な接客を徹底していれば、
遠方の“美味しいコース”や高額の依頼を優先的に回されるようになる。
この世界では表立った賞賛はないが、
「また頼むよ」という一言が最高の評価だった。

❌ 一度の失敗が命取り

ある夜、新人ドライバーが渋滞を避けられず送迎が大幅に遅れた。
キャストは客に怒られ、コースは短縮。ママさんは激怒し、
翌日からその新人の名前は送迎リストから消えた。
街は狭く、評判は瞬く間に広まる。夜の世界は失敗に対して容赦がない。

「昨日あの子遅かったね」「また道間違えたらしい」
そんな噂話が同業者の間を一瞬で駆け抜ける。
それだけで仕事量がゼロになることもある。
送迎ドライバーの世界は、常に信用の積み重ねで成り立っていた。

📖 ベテランドライバーの知識と暗黙ルール

ベテランドライバーは、街の裏道、警察の巡回ルート、
客層やママさんの性格まで把握している。
ホテル街での車の停め方、ハザードをつけるタイミング、
キャストを車に乗せる際の一言──
そうした細かいマナーや暗黙のルールを守ることで、
「できるドライバー」という信頼を築いていった。

一方、気づかずルールを破った新人は、
自分が理由も知らないまま干されていく。
この世界は“誰も直接教えないテスト”の連続だった。

🤝 信用の価値

夜の街では、信用は名刺代わりだった。
トラブルを起こさない、急な依頼にも応じる、
キャストの安全を第一に考える──
こうした積み重ねでしか信頼は得られない。

店側の評価だけでなく、客や同業ドライバーからの評判も重要だ。
裏社会の世界は想像以上に小さく、繋がりが複雑。
一度信用を失えば、その後の復帰はほぼ不可能といっていい。

🏆 プロドライバーへの道

送迎ドライバーは単なる“足”ではない。
キャストや店の信頼を背負い、時には盾となり、
街の危険やトラブルを避ける役目を果たす。
呼ばれるということは、人手不足ではなく、
「プロ」として認められている証拠だった。

夜の街で生き残るには、運転技術よりも信用がすべて。
呼ばれる者と呼ばれない者の差は、わずかな態度や一言、
そして街の“空気”を読む力で決まっていた。



| ◀ Episode11へ | 目次へ戻る | Episode13へ ▶ | noteで読む(準備中) |

※記事内の出来事や人物は過去の経験を基にした記録であり、特定の個人や団体を誹謗中傷する意図はありません。

タイトルとURLをコピーしました